嚥下訓練とは?2つの訓練内容と訓練を行う際の注意点

嚥下力の低下や嚥下障害の人に対して行う訓練の一つとして、嚥下訓練があります。

そして嚥下訓練のなかには、間接訓練と直接訓練の2つの訓練内容があり、それぞれ向いている人の特徴があるため事前に知っておきましょう。

この記事では、嚥下訓練とは何か、間接訓練と直接訓練の内容、訓練を行う際の注意点などを紹介します。

ただし、嚥下訓練は誤嚥や窒息のリスクや危険性をともなう行為です。

家族や本人が独自に行うのではなく、歯科医師などの指示や指導を必ず受けてください。

嚥下訓練とは?

嚥下訓練中のシニア男性とトレーナー女性の画像

嚥下訓練とは、嚥下機能の低下防止や嚥下機能の向上を目指すものです。

ここでは、嚥下訓練を行う目的や嚥下訓練が必要となる「嚥下障害」の原因4つについて紹介します。

嚥下訓練を行う目的

嚥下訓練を行う目的は大きく、「食事を楽しみしっかりと栄養を摂取してもらう」「誤嚥性肺炎の予防」の2つです。

まず、1つ目の「食事を楽しみしっかりと栄養を摂取してもらう」ですが、嚥下機能が低下すると食事を取るのが億劫になってしまい、経口摂取の量が減ってしまうことがあります。

この状態が続くと、脱水や低栄養などのリスクが高くなるだけではなく、嚥下機能がより低下していく可能性があります。

嚥下訓練を行い、嚥下機能の向上を目指すことで、食事の楽しさを思い出し、食事量が増えて栄養状態の改善も期待できるでしょう。

2つ目の「誤嚥性肺炎の防止」ですが、誤嚥性肺炎とは嚥下機能の低下などが原因で食べ物や口内細菌が肺に入ってしまい炎症を起こす病気です。

肺炎のなかでも誤嚥性肺炎は高齢者に多い死因として知られており、厚生労働省の調査によると、2022年度日本人の死因6位となっています。

誤嚥自体は若い人でもあることですが、むせて食べ物などを押し返す力や免疫力が高いため、悪化したり死亡したりする可能性は低いです。

嚥下訓練を行うことで食べ物の誤嚥を防止し、誤嚥性肺炎予防が期待できます。

嚥下訓練が必要となる「嚥下障害」の原因3つ

「嚥下障害」の原因は、器質的原因・機能的原因・心理的原因・薬物的原因の4つあります。

このなかの、薬物的原因は原因となる薬の服用を中止すれば改善する場合が多いです。

ここでは、嚥下訓練が必要となる薬物的原因以外の3つの原因について以下の表で紹介します。

嚥下障害の原因詳細
器質的原因・嚥下に関わる舌・喉・食道などの器官に炎症や腫瘍などの異常がある ・痛みなどによってスムーズな嚥下が難しくなる ・手術で嚥下器官を切除した際に組織量が減って筋肉量が低下した
機能的原因・嚥下に関わる筋肉の動きが不十分 ・脳に問題があり指令が十分に届かずスムーズな嚥下ができない ・最も多い原因が脳梗塞や脳出血などの脳血管障害
心理的原因・器質的原因や機能的原因ではないにもかかわらず嚥下障害をきたしている ・認知症・拒食症・うつ病・心身症・うつ神経不安症などが考えられる

食べ物を使用しない間接訓練(基礎訓練)

嚥下訓練のぱ・た・か・ら体操の画像

間接訓練(基礎訓練)は、食べ物を使用せずマッサージや運動などを行う嚥下訓練の1つです。

訓練を行い、嚥下に関わる器官を刺激することで嚥下機能の維持や改善を目指します。

間接訓練が向いている人の特徴

間接訓練が向いている人の特徴としては、誤嚥のリスクが高く食べ物を使用する直接訓練の実施が危険な人です。

また、食前の準備運動として実施される場合も多く、のちほど紹介する直接訓練と並行して行われます。

主な訓練方法

間接訓練の主な訓練方法は以下のとおりです。

訓練方法内容
リラクゼーション・首・肩周辺の筋肉をほぐし体をリラックスさせる ・腕を左右に広げたり深呼吸したりでも効果的
ブローイング訓練・鼻咽頭閉鎖不全や機能低下に対する訓練 ・水を入れたコップにストローを入れて強く吹いたり弱く吹いたりを繰り返す
感覚向上訓練・アイスマッサージを行う(凍らせた綿棒を水につけて口内を刺激する) ・食べ物を嚥下する際の嚥下反射の誘発を促す
嚥下反射促通手技・アゴから下の筋肉をマッサージして刺激する ・食べ物が口内に残ってうまく嚥下できない際にも行う場合がある
呼吸訓練・誤嚥した際に咳で食べ物を排出できるように筋力を鍛える ・腹式呼吸を意識することで呼吸機能を高める
発声訓練・嚥下するときと同じ器官を使用する「ぱ・た・か・ら」の4音を発声する ・筋力アップや舌の動きをスムーズに行う練習

食べ物を使用した直接訓練(接触訓練)

食べ物を使用した直接訓練(接触訓練)中のシニア男性の画像

直接訓練(摂食訓練)は、実際に食べ物を使用して嚥下機能を高める訓練です。

実際に食べ物を使用すると、窒息や誤嚥のリスクが高くなるため医師や歯科医師など専門家の指導の元、安全性を確保したうえで訓練を行いましょう。

直接訓練が向いている人の特徴

直接訓練が向いている人の特徴は、口から安全に食事を食べられると判断され、健康状態が安定している人です。

直接訓練の前には、間接訓練を準備運動として実施するなど並行して取り入れて行きましょう。

主な訓練方法

直接訓練の主な訓練方法は以下のとおりです。

訓練方法内容
介護食の調節・嚥下レベルに合わせた介護食の提供 ・ゼリー食などから始めて少しずつ通常の食事に移行
交互嚥下・パサついたものを食べたあとにゼリーなどとろみの付いたものを食べる ・形状の異なる食事を交互に摂取することで食べ物が口腔内に残りにくくなる
複数回嚥下・通常の一口分を複数回に分けて飲み込む ・複数回に分けることで食べ物が口内に残ることを防ぐ
スライス型ゼリー丸のみ法・食べ物をうまく食べられない・喉の食べ物カスが残る・しばらく口からの食事をしていなかった人が対象 ・誤嚥防止などの目的がある ・薄くスライスしたゼリーを噛まずに丸のみする
横向き嚥下・嚥下時にに頸部を旋回し、食べ物が通過しやすい咽頭側に誘導する ・嚥下前に行うとよりよい

直接訓練を行う際のポイント

直接訓練を行う際のポイントは、以下の3つあります。

1つ目は、姿勢の調整です。

直接訓練をする前には必ず食べ物を飲み込みやすく、誤嚥防止になるような姿勢をとります。

椅子に座る場合は直角になるように、リクライニングを使用する場合は30〜60度の間に調整しましょう。

2つ目は、食事中の環境づくりです。

テレビが付いている状態では、注意が散漫してしまい食事に集中できず誤嚥リスクが高くなります。

そのため、テレビを消すなど食事に集中できる環境づくりを心がけましょう。

3つ目は、食器や食事形態です。

嚥下能力に合わせたきざみ食やゼリー食など食事形態を用意することも大切ですが、食べやすい食器を用意することも直接訓練では重要です。

スプーンやフォークは持ち手が太く掴みやすかったり、薄く平い口に運びやすかったりするものを選びましょう。

直接訓練の中止基準

直接訓練は実際に食べ物を使用して訓練を行うため、誤嚥や窒息の危険があります。

直接訓練中に以下のような症状があればすぐに訓練を中止してください。

訓練を中止した際には医師に相談のうえ、時間が経過しても体調面などの不調がないかしっかりと観察しましょう。

嚥下訓練を行う際の注意点

びっくりマークとそれを指差す手元

嚥下訓練を行う際には、安全性を確保するためにもいくつかの注意点があります。

ここでは、特に守ってほしい注意点を4つ紹介します。

嚥下訓練を実施する際には、こちらで紹介する注意点を意識しながら実施してください。

同意のものと行う

嚥下訓練は必ず、本人の同意のもとで行いましょう。

訓練を無理に押し付けてしまうと、訓練を行う人とスタッフ間の信頼関係が崩れてしまい、今後の介護に支障が出る可能性があります。

また、何をするのか分からない状態での訓練は、「何を意識するとよいのか」がわからず、訓練の効果を十分に得られない場合もあります。

訓練内容にあった環境で行う

嚥下訓練を実施する際には、訓練内容にあった環境を整えたうえで実施しましょう。

「環境」とは、食事中の姿勢だけではなく、食事形態や使用する食器の形態なども訓練を行う人の嚥下レベルに合わせたものを選んでください。

訓練中は、訓練内容だけではなくその様子もしっかりと確認して、体調の変化などを見逃さないようにしましょう。

むせるタイミングやむせやすい食べ物をチェックすることで、今後の嚥下訓練をより的確で有効に計画できます。

誤嚥に注意する

直接訓練は実際に食べ物を使用するからこそ、誤嚥のリスクが高くなります。

そのため、本人の嚥下レベルに合わせた訓練内容を実施するようにしましょう。

また、体調が悪い日に嚥下訓練を行うと健康であれば誤嚥しない訓練内容でも、誤嚥につながってしまう可能性があります。

嚥下訓練を行う際には、訓練内容の検討だけではなく、訓練実施時の体調面についてもよく観察して、訓練実施の有無を決めてください。

嚥下訓練は医師または歯科医師の指示でおこなう

嚥下訓練は、誤嚥や窒息のリスクや危険性をともなう行為であるため、医療行為に分類されています。

そのため、嚥下訓練には医師または歯科医師が看護師・言語聴覚士・歯科衛生士などのスタッフが連携して行いましょう。

嚥下訓練を医師や歯科医師の指示なく独自の判断で行った場合、医師法により3年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金、またはこの両方が課されます。

命に関わる訓練だからこそ、自己判断で実施せず必ず医師や歯科医師の指示を受けたうえで慎重に実施しましょう。

まとめ

この記事では、嚥下訓練とは何か、間接訓練と直接訓練の内容、訓練を行う際の注意点などを紹介しました。

嚥下訓練を実施する目的には、「食事を楽しみしっかりと栄養を摂取してもらう」「誤嚥性肺炎の予防」の2つがあります。

嚥下訓練には、食べ物を使用しない間接訓練と食べ物を使用する直接訓練があり、嚥下レベルなどによってどちらの訓練を実施するか検討しましょう。

嚥下訓練を実施する際には、必ず同意の元で行い、誤嚥に注意しながら進めてください。

また、嚥下訓練は誤嚥や窒息のリスクがあるため、医療行為に分類されています。

嚥下訓練を実施する際には、必ず医師や歯科医師の指示で慎重に行いましょう。

岡崎歯科』では、「すべての人に必要な医療を」の考えのもと、さまざまな患者様が治療を受けられる環境を目指しています。

嚥下訓練をしたいと考えている方は、訪問歯科も実施している『岡崎歯科』に一度ご相談ください。

歯科医院に通院するのが難しい方でも、歯科医師がご自宅まで訪問させていただくことで、嚥下訓練や口腔ケアなどさまざまな状況を改善できます。

歯科医院での嚥下訓練や訪問歯科に興味がある方は、ぜひ『岡崎歯科』までお気軽にお問い合わせください。

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