摂食・嚥下とは?摂食嚥下障害になる原因や問題について解説
「摂食」「嚥下」という言葉が食べることを指しているとなんとなく知っていても、くわしくどういった行為を指しているのかまで知っている人は少ないかもしれません。
また、今までどおりの食事が難しくなる摂食嚥下障害についても、どのような症状なのか、どういった原因でなってしまうものなのか気になるでしょう。
摂食嚥下障害を放置してしまうと、さまざまな問題が起こる可能性があるため、摂食嚥下障害かもしれないと思ったら放置はしないようにしてください。
この記事では、摂食・嚥下とは何か、摂食嚥下障害になる原因や起こる問題について解説します。
摂食・嚥下について知りたい人、摂食嚥下障害によって起こる問題を知っておきたい人はぜひ最後までご覧ください。
摂食・嚥下とは?

摂食・嚥下とは、食べ物を認識・口に取り組む・咀嚼・飲み込むまでの一連の流れを指します。
摂食と嚥下はどちらも食べることを指していますが、「食べる行為のどの部分を指しているか」が異なります。
摂食と嚥下がそれぞれ意味するのは以下のとおりです。
- 摂食:食べ物を食べること全体
- 嚥下:食べ物を口のなかから食道を通って胃に送り込むこと
嚥下は摂食行動のなかの1つとなっています。
摂食嚥下の5期
摂食嚥下は、先行期・準備期・口腔期・咽頭期・食道期の5つに分かれています。
詳しい動きは以下のとおりです。
先行期 | ・認知期とも呼ばれ、食べ物があることを認識して口に入れるまでの段階 ・食べ物の認識は目視だけではなく嗅覚や触覚などでも行う ・食べ物を認識することで、食欲を感じて唾液の分泌や消化管の運動を促す ・先行期以降の動きの準備を行う大切な段階 |
準備期 | ・口に入ってきた食べ物を咀嚼して小さく柔らかくし、唾液と混ぜて咽頭や食道をとおりやすい形にする ・食べ物が口からこぼれないように口唇を閉じる ・舌や口腔周囲筋を動かす協調運動が重要 |
口腔期 | ・舌を使って咀嚼した食べ物を咽頭(喉)へ送り込む ・舌を口の上側にくっつけることで、口腔内の圧を高め食べ物を咽頭へ送り込む ・嚥下と呼吸のタイミングを合わせ、嚥下反射を誘発する |
咽頭期 | ・嚥下反射で食べ物を咽頭から食道へ運ぶ ・咽頭の通過は0.5秒以内とごく短い時間で行われる ・誤嚥を防ぐため、声門は閉じられ、気道防御機構が働く ・嚥下反射がうまくできなかった場合食べ物が気道へ進んでしまうため誤嚥が最も起こりやすい段階 |
食道期 | ・食道の蠕動運動と重力で食べ物を胃へ送り込む ・食べ物が食道を通過するのは、液体で約3秒、固形物で約8秒 ・胃へ到着したあとは、食べ物が食道や咽頭へ逆流しないように食道の入口である上食道括約筋が閉鎖 |
摂食は上記の5つに分かれていますが、このうち咽頭期と食道期が「嚥下」に当たります。
摂食嚥下障害になった際の症状

摂食嚥下障害は食事を食べたり水分を飲んだりできない、または難しくなる状態です。
摂食嚥下障害になった際の主な症状には以下のようなものがあります。
- 食べたり飲んだりするとむせる
- 固形物を噛んで飲み込めない・飲み込みにくい
- 食べ物を噛んでいるときに口からこぼれてしまう
- 食事に時間がかかる
- 嚥下後も口や喉に食べ物が残ってしまう(咽頭残留)
- 食後に痰が出る
- 食後に声が変わる(がらがら声) など
もし、「摂食嚥下障害かもしれない」との疑いがあれば、耳鼻咽喉科・リハビリテーション科・神経内科・消化器内科・歯科・歯科口腔外科などを受診しましょう。
摂食嚥下障害の原因5つ

摂食嚥下障害になってしまう原因はおもに5つあります。
原因によって適した治療方法が変わるため、まずは正しい原因を把握しましょう。
器質的原因
嚥下に使用する舌や喉、食道などの器官に炎症があったり、腫瘍があったりすることで嚥下しにくくなっていると考えられるのが器質的原因です。
摂食嚥下部分の炎症や腫瘍の例としては、口内炎・舌がん・食道がん・咽頭がんなどがあります。
炎症があると痛みがあり筋肉がうまく動かせなくなるだけではなく、腫瘍があると組織そのものが器官の動きを阻害することもあるでしょう。
腫瘍は外科手術によって取り除くことができます。
しかし、取り除くことで筋肉組織の厚みが薄くなり筋力低下につながる場合があるため、腫瘍が治ったあとでも嚥下障害を引き起こすことがあります。
また、口蓋裂や顎の形成不全といった先天的な異常も原因の一つです。
機能的原因
嚥下に関わる筋肉の動きがうまく行えない状態で考えられるのが機能的原因です。
脳梗塞や脳出血、くも膜下出血といった脳血管障害やパーキンソン病などが原因で筋肉や神経に指令が十分に届かなくなると、嚥下機能が低下してしまいます。
また、最近は脳卒中が嚥下障害の最大のリスクであると指摘されています。
中高年になると軽い脳梗塞や脳出血が起こることがあり、軽度であれば倒れることはなくても嚥下障害として現れることがあるようです。
精神心理的原因
認知症の進行・拒食症(神経性食欲不振症)・うつ病・心身症・うつ神経不安症などが原因となり、嚥下障害が起こることもあります。
特に認知症が進行すると、「食べる」という行為自体や食事の必要性などを認識できず食事を拒否することがあります。
また、拒食症やうつ病などの精神疾患の場合、喉の違和感や飲みこみにくさが生じて、嚥下がうまくできなくなることも多いです。
薬剤の影響
服用している薬剤によっては、摂食・嚥下障害を引き起こす可能性があります。
摂食・嚥下機能に影響する可能性がある薬には、脳機能抑制などの効果があるものです。
この効果がある薬には、抗精神病薬・精神安定剤・抗けいれん剤などがあり、覚醒レベルの低下を招くため摂食・嚥下がむずかしくなることがあります。
また、利尿剤・交感神経遮断剤・抗ヒスタミン剤・抗精神病薬などは、副作用の1つとして口腔乾燥があります。
口腔乾燥は、咀嚼時の唾液分泌量が減るため咀嚼機能が低下し、食べ物を柔らかくできないため、嚥下のし難さを感じるかもしれません。
加齢
加齢によって摂食・嚥下に関係する筋力や嚥下反射、咳反射が弱まることも摂食嚥下障害の原因です。
加齢は、器質的原因に含まれることもあり、緩やかに症状が進行するためある程度悪化してから摂食嚥下障害だと気付く場合があります。
また、加齢が原因で摂食嚥下障害になると、咳反射や免疫力の低下から食べ物や口内細菌が気道に入って炎症を起こす誤嚥性肺炎になる可能性があります。
摂食嚥下障害によって起こる問題

摂食嚥下障害を放置することによって起こる問題はさまざまあり、なかには命に関わるものもあります。
ここでは、摂食嚥下障害によって起こる問題を5つ紹介します。
もし、摂食嚥下障害になった場合は、治療やリハビリを行い摂食嚥下機能の改善を目指してください。
誤嚥性肺炎
摂食・嚥下障害の問題として、よく耳にするのが誤嚥性肺炎でしょう。
誤嚥性肺炎とは、食べ物や唾液、細菌が気道に入って炎症をおこしてしまい起きる肺炎の一種です。
通常は、食べ物などが気道に入っても咳き込んで排出できます。
しかし、高齢者など筋力が低下している状態では、咳き込んでも食べ物などを排出できず肺炎につながります。
肺炎のなかでも誤嚥性肺炎は高齢者に多い死因として知られており、厚生労働省の調査によると、2022年度の日本人の死因6位となっています。
食べ物などが詰まってしまう・窒息
食べ物や飲み物、唾液などが気道を塞いでしまい、息ができなくなる状態が窒息です。
嚥下する筋力が低下したり、嚥下する際に気道を蓋する役割がある喉頭蓋の動きが不十分な場合に起こるリスクが高くなります。
食べ物などが詰まり窒息状態になった場合は、できるだけ早く詰まったものを吐き出させる必要があります。
詰まってしまった食べ物を吐き出させる方法としては、肩甲骨の間を手平の付け根で叩いたり腹部突き上げ法が効果的です。
窒息状態になると、早く呼吸できる状態にしなければ重大な障害が残る可能性があります。
- 窒息から3~4分:顔色が青紫色に変化する
- 窒息から5~6分:呼吸が停止し意識が消失する・心停止・大脳への障害が起きる
- 窒息から15分以上:脳死状態
窒息状態になったら時間がありません。
たとえ食べ物を吐き出しても意識がない場合は救急車を呼んでください。
低栄養
摂食・嚥下障害になると、食事量が減ったり食べられる食事の形が限定されてしまう場合があり、そうすると低栄養状態になってしまう可能性があります。
低栄養状態とは、身体に必要なたんぱく質やエネルギーが不足してしまい、健康な身体を維持できない、または維持が難しい状態です。
低栄養状態が長引けば、免疫力・体力・筋力が低下してしまい、筋力の低下がより一層摂食・嚥下障害を悪化させる悪循環につながります。
また、体力の低下は今までできた動きができなくなり、QOL(生活の質)の低下にもつながってしまうでしょう。
脱水
摂食・嚥下障害によってうまく飲み込めない状態になると、水分は失われているのに十分な水分補給ができず脱水につながる場合があります。
人は汗や唾液、尿などで常に水分が失われている状態です。
そのため、飲み物だけではなく食事に含まれる水分も含め2L程度、最低でも1Lの摂取が推奨されています。
軽度脱水であれば、唾液量減少による口内環境の悪化や肌のハリが失われるでしょう。
重度脱水状態になれば血圧の低下によりふらつきや失神、重度の脱水が続けば腎臓・肝臓・脳などに重度の損傷が生じ、命に関わります。
QOLの低下
摂食・嚥下障害になり、好きなものを自由に食べれなくなると、楽しみが喪失してQOLが低下してしまいます。
食事は生きるために必要な行為ですが、同時に「今日の夕飯は〇〇を食べよう」「おやつには甘いものを」と毎日の楽しみとなっていることも多いです。
また、摂食・嚥下障害による低栄養状態の体力低下により、やりたいことやできていたことができなくなる状態はQOLの低下につながります。
咀嚼・嚥下機能を少しでも改善するためにリハビリなどを行うことも大切ですが、機能回復には限界があります。
そのため、「食べる」ことが苦痛にならないように、安全に楽しく食べられるような咀嚼・嚥下レベルにあった食事の提供を行うようにしましょう。
摂食・嚥下障害の治療・リハビリテーション
摂食・嚥下障害の治療としては、機能改善や筋力向上のリハビリテーションが有効です。
リハビリテーションは主に口腔ケア・間接訓練・直接訓練の3つからなり、それぞれ以下のような内容となります。
- 口腔ケア……訓練前に口腔内をきれいにして衛生的な状態にする
- 間接訓練……食べ物を使わずに行う訓練。嚥下諸器官の準備運動、筋力強化などを行う
- 直接訓練……食べ物を使って行う訓練。「食べる」ことを繰り返し練習する。誤嚥の危険が伴うため安全に十分に配慮した上で行われる
具体的には、以下のような内容の訓練を行います。
間接訓練 | ・首や肩周辺の筋肉をほぐすリラクゼーション ・鼻咽腔閉鎖不全や機能低下に対するブローイング訓練 ・食べ物を嚥下する際の嚥下反射の誘発を促す感覚向上訓練 ・アゴから下の筋肉をマッサージして刺激する嚥下反射促通手技 ・腹式呼吸を意識することで呼吸機能を高める呼吸訓練 ・筋力アップや舌の動きをスムーズに行うための発声訓練 |
直接訓練 | ・嚥下レベルに合わせた介護食の提供 ・形状の異なる食事を交互に摂取する交互嚥下 ・通常の一口分を複数回に分けて飲み込む 複数回嚥下 ・薄くスライスしたゼリーを噛まずに丸のみするスライス型ゼリー丸のみ法 ・食べ物が通過しやすい咽頭側に誘導する横向き嚥下 |
摂食・嚥下障害に対する治療やリハビリテーションは、誤嚥などの危険性があるため、自己判断で行うのは危険です。そのため間接訓練や直接訓練は必ず医師や歯科医師など専門家に相談しましょう。
『岡崎歯科』では、「すべての人に必要な医療を」の考えのもと、さまざまな患者さんが治療を受けられる環境を目指しています。
摂食嚥下機能改善のためにリハビリや口腔内ケアをしたいと考えている方は、定期的な歯科医院でのケアも非常に重要です。
『岡崎歯科』では、通院が難しい人のために訪問歯科も行っています。
歯科医師がご自宅まで訪問させていただくことで、摂食嚥下機能改善のためにリハビリや口腔内ケアだけではなく口腔内のさまざまな状況を改善できます。
まとめ
この記事では、摂食・嚥下とは何か、摂食嚥下障害になる原因や起こる問題について解説しました。
摂食・嚥下とは、食べ物を認識・口に取り組む・咀嚼・飲み込むまでの一連の流れを指し、先行期・準備期・口腔期・咽頭期・食道期の5つに分かれています。
摂食嚥下障害になると、食事を食べたり水分を飲んだりできない、または難しくなり誤嚥性肺炎や窒息などさまざまな問題を引き起こします。
歯科医院での口腔内のケアや訪問歯科に興味がある方は、ぜひ『岡崎歯科』までお気軽にお問い合わせください。
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