安全に嚥下しやすい正しい姿勢とは?日常でできる対策を紹介
飲食中に誤嚥や窒息などの心配がある方は、安全に嚥下できる正しい姿勢の意識が重要です。嚥下の動作がスムーズに行われない場合、食事中に思わぬ事故が起きる可能性が高くなります。
特に高齢者の方や嚥下機能が低下した方、介護者の方にとって、正しい姿勢は嚥下の安全性を高め、安心して食事を楽しむための大きなサポートになるでしょう。
そのためには嚥下の仕組みや安全性を高める正しい姿勢、日頃から取り入れられる対策などを知っておくと安心です。
この記事では、嚥下の意味や仕組み、安全な嚥下をしやすい正しい姿勢、日頃から無理なく取り入れやすい対策などについて詳しく紹介します。
嚥下の意味と仕組み

嚥下とは、とてもシンプルに言えば「飲み込むこと」です。なにげない動作に思えますが、高齢者の方や一部の方にとっては難しいこともあるため、理解やサポートが必要です。
ここでは、嚥下の意味や仕組みについて紹介します。
嚥下とは?
嚥下とは、食べ物や飲み物を口、喉、食道の順で送り込むプロセスを指しています。単純な動作に思えるかもしれませんが、実際には複数の筋肉と神経が連携して行う高度な運動です。
嚥下の過程が正常に機能しない場合、以下のような危険が生まれます。
- 食べ物や飲み物が気管に入ってしまう
- 誤嚥や窒息のリスクが高まる
このようなリスクは飲食に不安を覚えるようになるだけではなく、時として生命に関わる恐れもあるため、ご本人や周囲の方はできる限り注意する必要があります。
嚥下までの5段階
嚥下はいわば「飲み込むこと」ですが、「口に入れてから嚥下するまで」という一連の動作はさまざまな段階に分類できます。
どの段階で「難しいな」と感じるかが把握できれば適切な対策をしやすくなるため、大まかな仕組みを知っておくとよいでしょう。
口に飲食物を入れ、嚥下するまでのプロセスは以下のように5つの段階に分けられます。ここでは「食べる」を例にして紹介します。
1:認知期 | 食べ物を識別し、口の中に取り込むまでの段階 |
2:準備期 | 食べ物を咀嚼して塊にする段階 |
3:口腔期 | 塊を喉の奥に舌で運ぶ段階 |
4:咽頭期 | 塊を喉から食道へ運ぶ段階 |
5:食道期 | 塊を胃へ運ぶ段階 |
この五段階で嚥下に該当するのは「4:咽頭期」と「5:食道期」です。
1~5の中で難しさを感じる段階はどこになるか、ご本人やご家族の把握が改善に役立つでしょう。
嚥下機能の低下で起こる影響
嚥下機能の低下は単に「飲み込みにくいな」と感じるだけではとどまらず、対策しなければ身体の安全や健康をおびやかす可能性があります。
特に心配されるのは以下のような影響です。
- 誤嚥:飲食物が気道に入り、時として誤嚥性肺炎を起こす可能性
- 窒息:食塊が気管をふさぎ、呼吸困難を引き起こす可能性
- 低栄養:嚥下が困難なために食事量が減り、適切な栄養が摂取できない
このようなリスクを避けるためには、安全に嚥下できる正しい姿勢を意識しながら食事をすることが大きな対策のひとつになります。
安全な嚥下には正しい姿勢が重要

安全に嚥下するためには、正しい姿勢での飲食が重要です。ここでは、嚥下姿勢を意識するべき方や安全な嚥下がしやすい正しい姿勢などについて紹介します。
嚥下姿勢を特に意識していただきたい方
嚥下姿勢を特に意識していただきたいのは、高齢者の方・嚥下障害のある方・寝たきりの方です。その理由は以下になります。
高齢者の方 | 加齢による筋力低下や神経機能の衰えにより、嚥下機能が低下しやすい |
嚥下障害のある方 | 誤嚥や窒息のリスクが高い |
寝たきりの方 | 安全な姿勢の保持が難しく、誤嚥のリスクが増加する |
また、以下のことに心当たりがある方も注意してみてください。
- 食事中にむせたり咳き込んだりする
- 声がガラガラになった
- 痰が絡みやすい
- 喉や胸につかえを感じる
- 食事に時間がかかり、疲れて残す
- 食べこぼしが増えた
このほか「何かおかしいな」と感じたら、医療機関(歯科、耳鼻咽頭科、消化器科など)やケアマネジャーなどへの相談をおすすめします。
岡崎歯科でも嚥下に関するお悩みをご相談いただけますので、ご不安を感じた方やご家族はお気軽にご連絡ください。
正しい嚥下姿勢
食事中の正しい姿勢の保持は安全な嚥下に欠かせません。
椅子に座って食事をする場合、以下の姿勢を意識してみてください。
- 背筋を伸ばし、あごを引いてやや前かがみになる
- 椅子に背もたれがあれば深く腰掛ける
- 足裏が床につくようにテーブルや椅子の高さを調節する
特に「前かがみ」は喉から気管に角度がつくことによって、飲食物が食道に正しく入りやすくなる効果が高まります。
むせや誤嚥が起こりやすい注意すべき姿勢
次のような姿勢は誤嚥の可能性が高くなるため、意識して避けるようにしましょう。
- 前後や横に身体がかたむいている
- あごが上がり、首を引っ込めるような状態になっている
- 足が浮いてしまっている
このような状態になっている場合、誤嚥の恐れが高まります。食事前だけではなく、食事中にもたまに確認しながら安全に食事を楽しみましょう。
寝たきりの方が安全に嚥下するためのポイント
寝たきりの方が安全に嚥下するためには、飲食物が食道に流れやすくなることが重要です。以下に挙げる身体の角度や姿勢の安定などを意識してみてください。
- 上半身を起こし、重力を利用して飲食物が食道に流れやすくする
- クッションや枕を使って姿勢を安定させる
- 介護者の方は口の少し下から食べ物を運ぶ
- リクライニングの角度30度~60度が適切
誤嚥防止には身体の角度も重要になるため、リクライニングを30度~60度の間で設定するとよいでしょう。
30度は介助が必要な方や口から食べ物がこぼれやすい方、45度~60度は自力で食事ができる方に向いています。ご本人が食べやすく、誤嚥の心配を軽減できる角度を探してみてください。
また、食後すぐに横になると口腔内に残っていた食べ物の誤嚥や胃からの逆流などが起こる恐れがあります。できれば食べ終えてもしばらくは上半身を起こすようにすると安心です。
安全な嚥下は歯科医院のサポートも効果的

嚥下は喉や消化器官が関わるため、耳鼻咽喉科や消化器内科などの領域というイメージが強いかもしれません。しかし、実は歯科医院も安全に嚥下するためには欠かせないサポートをしています。
ここでは、安全な嚥下のために歯科医院ができることについて紹介します。
口腔内クリーニング
口腔内のクリーニングによってむし歯や歯周病を予防すると、嚥下機能の低下で誤嚥してしまった際に心配される誤嚥性肺炎の発症リスクを下げやすくなります。
誤嚥性肺炎は唾液などに含まれた細菌が誤嚥によって肺に入り込むことによって起きるため、口腔内の細菌の数をいかに減らすかが重要です。
安全な嚥下ができるように意識することはもちろんですが、万が一、誤嚥してしまった場合のリスクについても考慮し、定期的な口腔内クリーニングを受けましょう。
入れ歯の調整
入れ歯が合っていないと食べ物を正しく噛めなくなり、嚥下が難しくなります。以下のような状態に心当たりがあれば、入れ歯の調整が必要です。
- 入れ歯がゆるくなった
- 入れ歯をしていると痛い
- 一部が損傷している
このような状態のほか、「違和感がある」「フィットしない気がする」などがあれば歯科医院で早めに調整しましょう。
通院が難しければ訪問歯科を
身体機能の衰えや持病、その後遺症などで外出が難しく、通院が困難な方は訪問歯科の利用もおすすめです。訪問歯科は以下のような特徴があるサービスです。
- 歯科医師・歯科衛生士が直接自宅や入居している施設へ行く
- 通院しなくても一般的な治療や口腔内ケアが継続的・定期的に受けられる
- 嚥下の悩みも相談できる
- 医療保険で診療できる
- 介護保険で居宅療養管理指導が受けられる
家にいながら一般的な歯科医院の治療や口腔内ケアができるため、通院が難しくても口腔内の健康を保ちやすくなります。
医療保険で基本的な診察ができ、居宅療養管理指導は介護保険が使えるため、費用の負担も減らしやすくなっているほか、ケアプラン作成が不要という一面もあります。
興味のある方は自治体の窓口やケアマネジャーに相談してみてください。
日常での意識も重要

日常生活においても、安全な嚥下のためにご自身やご家族でできる対策があります。ここでは、日常生活の中で取り入れやすい対策について紹介します。
嚥下体操をする
嚥下機能を維持・向上させるためには、嚥下体操が効果的です。嚥下体操とは口や喉の筋肉を鍛えるための簡単なエクササイズで、毎日数分間行うだけでも効果が期待できます。
例えば、以下のようなことを試してみましょう。
- 口を大きく開けて「あいうえお」と発声し、口や顎、唇、舌を動かす
- 早口言葉を言う
- 唾液腺をマッサージする
口周りの筋肉や舌を動かすことにより、筋力の低下を防ぎます。また、唾液腺のマッサージは唾液の分泌量を減らし、口腔内をスムーズに飲み込みやすい状態にできるでしょう。
大切なのは毎日継続して行うことです。ご本人やご家族に無理のない範囲で習慣化できるように心がけてみてください。
ひとくちのサイズを小さめに
食事の際は食べ物を小さく分け、「小さなひとくち」を意識しましょう。
大きなひとくちではなく、小さなひとくちで食べることで嚥下しやすくなります。以下のことを考えながら取り入れてみてください。
- 食べ物は小さく切り分ける
- 一度にたくさん口に入れない
嚥下機能が低下している方は、一度に大きな量を口に入れると誤嚥のリスクが高まります。
食べ物を細かく切り分けたり、一口サイズに分けて食べたりすることは安全性を高めるために有効な方法です。
また、一度に大量の食べ物を口に入れないようにすることで、口内の食べ物をしっかりと咀嚼し、唾液と混ぜ合わせてから飲み込むことができるため、嚥下がスムーズになります。
このような方法は食事の時間をゆっくりと取ることにも繋がり、消化の負担を軽減する効果もあります。嚥下が安全になるだけではなく、健康にもよい影響が期待できるでしょう。
食事中は食べることに集中
食事中は過剰な会話やテレビなどの気を散らす要因を避け、「食べること」に集中できる環境を作りましょう。
特に嚥下機能が低下している方は、食事中に注意力が散漫になると誤嚥のリスクが高まります。食べ物を飲み込む瞬間に注意を集中させることで、嚥下のタイミングを正確に取れるようになるでしょう。
また、食事をする環境も重要です。静かで落ち着いた環境で食事をすることで、リラックスして食べ物を味わいながら嚥下しやすくなります。
かといって、沈黙の中で食事をするべきというわけではありません。声掛けやちょっとした楽しい会話など、集中力を保てる範囲で明るい食卓を楽しんでみてください。
まとめ
安全に嚥下するためには、正しい姿勢の保持が重要です。
特に高齢者の方や嚥下機能が低下している方は、日常生活での嚥下体操の取り入れや食事の見直し(ひとくちを小さく切り分ける、大量に口に入れない)など、できることから対策していきましょう。
また、歯科医院のサポートを受けることで、より安全な嚥下が可能になります。口腔内クリーニングや入れ歯の調整など、必要だと思うことは積極的に取り入れてみてください。
通院が難しい場合は訪問歯科のサービスもおすすめです。
訪問歯科は医療保険での診察が可能で、居宅療養管理指導が介護保険の適用になるなど費用面の心配が軽減できるほか、ケアプランの作成も不要なため、一度検討してみてください。
正しい嚥下姿勢と日常での対策を実践することで、食事を楽しみながら健康を維持しましょう。
岡崎歯科では高齢者の方や嚥下機能が低下した方などが安全にお食事できるよう、さまざまな面からサポートが可能で、訪問歯科にも対応しています。
「最近、飲み込みにくいかも」「入れ歯が合わなくて噛みにくい」など気になることがあれば、ぜひ岡崎歯科までお気軽にご相談ください。
#食事姿勢 #摂食・嚥下 #摂食嚥下障害 #訪問歯科