嚥下障害とは?考えられる原因と対応方法や治療方法を解説
私たちが健康に生活していくうえで、欠かせないのが「食事」です。
しかし、加齢や病気などが原因で食事を飲み込む(嚥下)が難しくなる嚥下障害になる場合があります。
そうなると、食事が毎日の楽しみの1つになっている人にとっては、楽しみが失われてしまうことになるため、「できるだけ改善させたい」と思っている人も多いでしょう。
この記事では、嚥下障害とはどのようなものか、考えられる原因と対応方法や治療方を解説します。
嚥下障害についてくわしく知りたい人、対応や治療方について知りたい人はぜひ最後までご覧ください。
嚥下障害とは?

嚥下障害とは、摂食・嚥下障害と呼ばれる場合もあり、食べ物を「食べる」「飲み込む」動作がうまくできない状態のことです。
嚥下とは、咀嚼して柔らかくなった食べ物を咽頭や食道に送り込む動作を指します。
嚥下障害では、食べ物が口・のど・食道・胃と流れていく過程のどこかで不具合が生じている場合が多いです。
摂食障害の主な症状は以下のとおりです。
- 食べ物が飲み込みにくくなったと自覚がある(嚥下困難)
- 食事や飲用時にむせる(誤嚥)
- 食事に時間がかかる
- 食事で疲れる
- 食べ物が口からこぼれる
- 飲み込んだあとも口のなかに食べ物が残っている
- 食事中や食事後に咳や痰が出る
- 食事後に声が変わる など
嚥下中のどの部分に不具合があるのか、どのような病気が関わっているのかによって、強く出る症状が異なる場合があります。
また、加齢で徐々に嚥下障害の症状が出てきた場合、症状に気付きにくい場合もあるため注意が必要です。
嚥下障害として考えられる4つの原因

嚥下障害として考えられる原因には、おもに4つあります。
嚥下障害の原因によって、対処方法や治療法が変わる場合があるため、まずは正しい原因を把握するようにしましょう。
炎症や腫瘍がある器質的原因
器質的原因とは、嚥下に使用する舌や喉、食道などの器官に炎症があったり、腫瘍があったりすることで嚥下しにくくなっている状態です。
例えば、口内炎・舌がん・食道がん・咽頭がんなどです。
痛みがあり筋肉がうまく動かせなくなるだけではなく、腫瘍があると組織そのものが器官の動きを阻害することもあるでしょう。
腫瘍は外科手術によって取り除くことができますが、そのあとに筋肉組織の厚みが薄くなり筋力低下につながる場合があります。
そのため、腫瘍が治った後でも嚥下障害を引き起こすことがあります。
筋肉や神経に異常がある機能的原因
機能的原因とは、嚥下に関わる筋肉の動きがうまく行えない状態です。
脳梗塞や脳出血、くも膜下出血といった脳血管障害やパーキンソン病などが原因で筋肉や神経に指令が十分に届かず、嚥下機能が低下してしまいます。
また、加齢による筋力低下も機能的原因の1つとされています。
精神疾患などによる心理的原因
心理的原因とは、認知症の進行・拒食症(神経性食欲不振症)・うつ病・心身症・うつ神経不安症などによって嚥下障害が起こるケースを指します。
特に認知症が進行すると、「食べる」という行為自体や食事の必要性などを認識できず食事を拒否することがあります。
また、拒食症やうつ病などの精神疾患の場合、喉の違和感や飲みこみにくさが生じて、嚥下がうまくできなくなることも多いです。
服用している薬物的原因
薬物的原因とは、服用している薬が原因で嚥下障害を引き起こしている状態です。
摂食障害を引き起こす可能性がある薬には、脳機能抑制の効果があるものです。
この効果がある薬には、抗精神病薬・精神安定剤・抗けいれん剤などがあり、覚醒レベルの低下を招くため嚥下がむずかしくなります。
また、利尿剤・交感神経遮断剤・抗ヒスタミン剤・抗精神病薬などは、副作用の1つとして口腔乾燥があります。
口腔乾燥は、咀嚼時の唾液分泌量が減るため咀嚼機能が低下し、食べ物を柔らかくできないため、嚥下のし難さを感じる場合が多いです。
嚥下障害に対しての対応方法

嚥下障害に対しての対応方法は、原因によって多少異なる部分があります。
ここでは嚥下障害全般に対して効果的な対応方法に絞って5つ紹介します。
嚥下障害の人やその疑いがある人へ食事を提供したり食事介助をしたりする際には参考にしてください。
温かく・冷たい物を食べる
温かい食事は温かい状態で、冷たい食事は冷たい状態で食べれるようにしましょう。
人の嚥下反射は体温に近い30〜40度では起こりにくいため、うまく嚥下ができず誤嚥が起こりやすくなります。
一方で、体温よりも温かい・冷たい温度は刺激となるため、嚥下反射を促し誤嚥が起こりにくくなります。
飲み込みやすい食事を選ぶ
きざみ食やソフト食など、嚥下レベルに合わせた飲み込みやすい食事を選ぶようにしましょう。
嚥下障害の人に塊のお肉を食事で出してしまうと、うまく咀嚼できないうえに飲み込む力(嚥下力)も弱ってるため、誤嚥や窒息の危険性があります。
あらかじめ小さく刻んでおくなど、飲み込みやすい食事形態を選ぶようにしましょう。
嚥下障害の人に提供される介護食は以下のようなものがあります。
食事の種類 | 特徴 |
軟菜食 | ・咀嚼力が低下した人や嚥下力が低下した人向け ・よく煮込んで柔らかくした食事 ・舌でつぶせる程度の硬さ |
きざみ食 | ・咀嚼力や嚥下力がやや弱い人向け ・入れ歯が合わなかったり開口障害がある人にも ・食べ物を細かく刻むことで簡単に噛めるようになっている ・食材の見や目や触感が残っている ・唾液量が少なかったり入れ歯を使っている人には避ける |
ミキサー食 | ・嚥下力が低下した人向け ・食べ物をミキサーにかけてペーストやポタージュ状になっている食事 ・誤嚥防止のためとろみ剤を使用する場合もある ・噛まずに嚥下できる ・胃腸に優しい |
ソフト食 | ・咀嚼力・嚥下力が低下し唾液量が少ない人向け ・ミキサー食のようにペーストやポタージュ状であるものの元の食材の形を再現している ・歯茎や舌でつぶせる程度のやわらかさ ・消化しやすい |
流動食 | ・術後で高熱があったり胃腸が弱っている人向け ・液状になっているおかずや粥の上澄みである重湯 ・カロリーや栄養素が少ないため、低栄養の人には避ける |
食事の環境と姿勢を整える
嚥下障害の人は、誤嚥を起こしやすいため食事中の環境や姿勢に注意する必要があります。
食事中は食事に集中できるようにテレビなどを消し、椅子に深く腰掛け背筋が伸びた状態が理想の姿勢です。
食事が終わったあとにすぐに横になるのも避けてください。
食後すぐに横になると食べ物が逆流し、嘔吐や誤嚥につながる可能性があります。
口内の清潔を保つ
食後の歯磨きや入れ歯の手入れを行い、口内の清潔を保つことも大切です。
食事後は必ず口腔ケアを行い、口内の清潔を保ってください。
口内や歯を清潔に保つことで、虫歯や歯周病の予防になり咀嚼機能の低下を防ぎます。
また、口腔内を刺激すると唾液の分泌を活性化させることができ、咀嚼時に食べ物を柔らかくしてくれるので嚥下しやすい状態になります。
日常的な口腔ケアは歯磨き・うがいや入れ歯の手入れ、舌磨きなどがありますが、定期的に歯科医を受診し、口内の状態を正しく確認しておきましょう。
岡崎歯科では、実際に当院に来て受診頂くこともできますが、訪問歯科についても対応しています。
当院の訪問歯科についてはコチラのページをご覧ください。
ピリ辛の物を食べる
トウガラシなどに含まれているカプサイシンを摂取することで嚥下反射が促進することが認められています。
カプサイシンを摂取すると、咽頭の知覚神経から神経伝達物質である「サブスタンスP」が粘膜中に放出され、サブスタンスP濃度が上昇し、嚥下反射を起きやすくしてくれます。
ただ激辛の物を食べる必要はなく、トウガラシを使用したピリ辛の物を食べたり、市販されているカプサイシン含有フィルムを使用したりしてもよいでしょう。
嚥下障害の治療法

嚥下障害になってしまった場合、主な治療法は間接訓練・直接訓練・手術の3つあります。
ここでは、それぞれの治療法についてくわしく紹介します。
ただ、リハビリに関しては自己判断で行うのではなく、必ず医師や歯科医師などの専門職の人からの指示を受け安全性を十分に確保したうえで行ってください。
嚥下機能の回復を目的とした間接訓練
間接訓練は食べ物を使用せず舌や口のトレーニングを行い、嚥下機能の回復を目指します。
実際の食べ物を使用した訓練では、誤嚥などのリスクが高い人や、直接訓練前・食事前の準備運動として行う場合が多いです。
主な訓練内容は以下のとおりです。
訓練方法 | 内容 |
リラクゼーション | ・嚥下諸器官や首・肩周辺の筋肉をほぐし体をリラックスさせる ・腕を左右に広げたり深呼吸したりでも効果的 |
嚥下体操 | ・直接訓練や食事前に行う準備運動 ・頸部・口唇・舌・頬を中心として動かす ・頸部周辺のストレッチや早口言葉も有効 |
感覚向上訓練 | ・アイスマッサージを行う(凍らせた綿棒を水につけて口内を刺激する) ・食べ物を嚥下する際の嚥下反射の誘発を促す |
ブローイング訓練 | ・水の入ったコップにストローを使ってぼこぼこと泡を作る ・強く吹いたり弱く吹いたり、ストローの太さを変えることで筋力低下を防ぐ |
嚥下反射促通手技 | ・アゴから下の筋肉をマッサージして刺激する ・食べ物が口内に残ってうまく嚥下できない際にも行う場合がある |
呼吸訓練 | ・誤嚥した際に咳で食べ物を排出できるように筋力を鍛える ・腹式呼吸を意識することで呼吸機能を高める |
発声訓練 | ・嚥下するときと同じ器官を使用する「ぱ・た・か・ら」の4音を発声する ・筋力アップや舌の動きをスムーズに行う練習 |
食べ物を使った直接訓練
直接訓練は実際に食べ物を使用して行うトレーニングで、嚥下機能の回復を目指します。
直接訓練は、間接訓練よりも誤嚥や窒息のリスクが高いため、より体調などの細やかな見守りが必要です。
もし、異変があればすぐに訓練を中止して、医師の判断を仰いでください。
主な訓練内容は以下のとおりです。
訓練方法 | 内容 |
介護食の調節 | ・嚥下レベルに合わせた介護食の提供 ・ゼリー食などから始めて少しずつ通常の食事に移行 |
交互嚥下 | ・口の中に食べ物が残りやすい人や食後にむせやすい人向け ・パサついたものを食べたあとにゼリーなどとろみの付いたものを食べる ・形状の異なる食事を交互に摂取することで食べ物が口腔内に残りにくくなる |
横向き嚥下 | ・食事中に湿声(ガラガラとした声)やむせてしまう人向け ・嚥下時に頸部を回し、食べ物が食道側に通過しやすいように誘導する ・食べ物が舌根と喉頭蓋の間にあるくぼみに残ってしまう残留を減らせる |
複数回嚥下 | ・通常の一口分を複数回に分けて飲み込む ・複数回に分けることで食べ物が口内に残ることを防ぐ |
誤飲を減らすための手術
手術によって嚥下障害からの回復を狙う場合もあります。
手術には、大きく嚥下機能改善手術と誤嚥防止術の2つがあります。
嚥下機能改善手術は、誤嚥をできるだけ減らすための手術です。
術後にはリハビリを行い、嚥下機能の回復を狙います。
ただ、術後のリハビリでも嚥下機能の回復が見込めないと判断された場合は、誤嚥防止術を検討しましょう。
誤嚥防止術は、食道と気道を分離する手術の総称であり、致命的な誤嚥性肺炎を回避することが目的です。
しかし、確実に誤嚥性肺炎を回避できる手術法ではありますが、発声機能が失われる可能性があります。
発声機能が失われることは患者と家族への心理的負担が大きいため、咽頭を温存するほかの術式が選ばれる場合もあります。
まとめ
この記事では、嚥下障害とはどのようなものか、考えられる原因と対応方法や治し方を解説しました。
嚥下障害とは、食べ物を「食べる」「飲み込む」動作がうまくできない障害のことであり、食事や飲用時にむせたり食事中や食事後に咳や痰が出たりなどの症状があります。
考えられる原因としては、器質的原因・機能的原因・心理的原因・薬物的原因の4つです。
嚥下障害の治療法としてはリハビリと手術があり、どの方法を行うのかは慎重に検討する必要があります。
また、嚥下障害の対応方法として、口内の清潔を保つ方法があり、歯磨きなど日常的にできることではありますが、定期的に歯科医に確認してもらうことも大切です。
『岡崎歯科』では、「すべての人に必要な医療を」の考えのもと、いままで必要な治療を受けられなかった患者さんにも治療を行うことを目指しております。
嚥下障害の予防や悪化防止のために口腔内ケアをしたいと考えている方は、定期的な歯科医院でのケアも非常に重要です。
口腔ケアを受けたいけど、歯科医院に行くことが難しい人のために、『岡崎歯科』では訪問歯科も行っています。
歯科医師がご自宅まで訪問させていただくことで、嚥下障害だけではなく口腔内のさまざまな状況を改善できます。
歯科医院での口腔内のケアや訪問歯科に興味がある方は、ぜひ『岡崎歯科』までお気軽にお問い合わせください。
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